お役立ちコラム

反射防止膜(ARコート)とは?
その効果・原理・計算方法・屈折率・用途について徹底解説

光の反射を抑えるために必要な薄膜が、反射防止膜(ARコート)です。
日常生活で例をあげると、スマホや液晶ディスプレイの画面が日光を反射してしまう、ショーウィンドウの照明が反射して店内が見えないという問題を解消するために用いられます。
このように反射防止膜は、日中でも視認性を向上させる効果があります。

この記事では、反射防止膜(ARコーティング)とはという基本的なところから、その効果・原理・計算方法・屈折率・用途について解説します。
ARコート(反射防止膜)について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

反射防止膜(ARコーティング)とは

反射防止膜を簡単にいうと、ガラスへの映り込みを低減させるための光学薄膜のことです。
なお、半導体の場合は、露光時UV光(紫外線)の不要な反射を吸収するためにつけられる膜が、反射防止膜に該当します。
この反射防止膜のことを、「AR(アンチリフレクション)コート」と呼びます。

コーティングされていないガラスに光を通過させると、入射側と射出側で各4%光を反射するので、合計で8%の光が反射。
最終的に92%の光が透過します。ガラスの反射率:1.5)
先にも書いたように、反射防止膜付きのARフィルムを貼ることで、光反射を約10分の1~8分の1まで抑えることが可能です。
ARフィルムを貼った場合と片面もしくは両面に貼った場合の反射率の一例は、それぞれ下記のようになります。

ARコーティングをしていない場合 表面4.0% + 裏面4.0% = 合計8.0%
片面のみARコーティングした場合 表面0.5% + 裏面4.0% = 合計4.5%
両面ともにARコーティングした場合 表面0.5% + 裏面0.5% = 合計1.0%

コーティングをしていない場合、外の景色が映り込むため、中にあるディスプレイなどは見にくくなります。
表面のみコーティングした場合は、裏面はそのまま反射されるので、半分以上は外の景色が映り込んだままです。そのため、反射は4割程度しか低減されません。

両面コーティングした場合、両面とも反射が抑えられるので、反射による影響はほとんどありません。反射も8分の1まで低減されます。
上記の他に、反射防止コーティングの実測実験はさまざまな形で行われており、おおむね0.4%~1%前後とほぼ反射が認められないところまで抑えられています。
なお、パソコンやスマホの画面は裏面反射がないので、表面に貼るだけで効果を発揮します。

下記の記事では、反射を効果的に防ぐモスアイ構造について解説していますので、あわせてご覧ください。

AR(アンチリフレクション)の原理

先にも書いたように、ARコートは光の干渉を利用しています。
もう少し詳しく書くと、表面反射光のスペクトルの山部とARコートを通過した裏面反射光の谷部を合わせることで、打ち消し合うような形になるようにコントロールして反射を抑える仕組みです。
たとえば、モニターの手前にAR加工されていないアクリル板と加工済みのアクリル板を置いたとします。
前者の方は外の景色が写り込んでほとんどモニターが見えないのに対して、後者は反射が抑えられることで画面がはっきりと見えます。

AR(アンチリフレクション)の法則

単層ARコートの材料(屈折率:n)を考えてみましょう。
単層ARコートでボトム反射率がもっとも低くなるのは0%です。
そのためには、振幅条件を成立させなければなりません。数式にすると下記のようになります。

たとえば、基材=1.70、空気=1とすると、材料は√1.70×1=1.30です。
つまり1.30の屈折率があればボトム反射率0%のARを作ることができます。
しかし、ちょうどよい屈折率と耐久性を兼ね備えた物質が存在するとは限りません。
そこで、基材の屈折率に合わせて存在する物質を組み合わせて性能を高めるわけです。

  

ARコートの膜厚と屈折率

ARコートの膜厚は、どれくらいあるかご存知でしょうか。
種類により異なりますが、約100~300nm程度です。
1nmが1マイクロメートルの1,000分の1なので、100~300万分の1と大変薄い膜となります。
ARコートには、単層と複数の異なる物質による積層があり、複数の物質を組み合わせることでより複雑な光学性能を発揮させることも可能です。

また、膜を構成する物質(材料)は複数あり、それぞれ固有の屈折率をもっています。
屈折率は、物質内における光の伝播速度で決まります。
物質内における光の伝播速度は、下記の算式で求められます。

上の例で見るとMgF2内での光の速度は真空中の光の速度の72.4%(1÷1.38)、TiO2内では同じく43.4%なので大きく異なります。
ARコートでは、屈折率が異なる物質を使って反射防止機能をコントロールしているのです。

反射防止コーティングの特長

反射防止コーティングには、下記のような特長があります。

「反射防止」という名前がついているくらいなので、光の反射を最小限に抑える効果があり、その結果として日中でもしっかりと視認性を保つことができます。
反射防止膜というとガラスや液晶ディスプレイなどに限定されると思いがちですが、フィルムや樹脂への成膜もできるので用途は幅広くあります。
それに加えて、汚れの防止や耐摩耗性の向上、撥水コーティングを追加できる点もメリットです。

反射防止膜(ARコーティング)の用途

反射防止膜には、階層別にそれぞれ特徴があります。積層は2〜6層までが多く、どれを選ぶかは仕様や用途によって変わります。
それぞれの用途をまとめていきます。
反射防止膜はメガネやカメラレンズ、液晶ディスプレイの表面、スマートフォン画面フィルム、車のメーターパネル、光ファイバーの端面、CD・DVD・ブルーレイディスクの反射防止など、光と密接な関係のあるさまざまな場面で活用されています。

用途に合わせて適した反射防止膜を選びましょう

本記事では、反射防止膜とARコーティングについて解説してみました。
反射防止膜は、屈折率が異なるものをうまく組み合わせることで、より複雑な反射防止機能を持たせる仕組みです。
ARコーティングは積層によって様々な種類があり、最適な用途もそれぞれ異なります。
用途に適したものを選ぶようにしましょう。

ジオマテックは、光の反射を抑えて映り込みを防ぎ、表示を見やすくする、反射防止膜(ARコーティング)をお客様の様々な用途に合わせて設計可能です。
自動車のスピードメータや、カーナビゲーションのディスプレイ、航空機や船舶の計器類や表示機器などの映り込み防止や、カメラ内部の反射防止などに採用されています。
1点ものの試作から大量生産まで発注可能となります。

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