お役立ちコラム

次世代太陽電池・太陽光発電はどうなっている?
その現状と、現在開発中の5種類を徹底紹介

環境問題への対応が世界全体で課題となっており、日本でも2030年までに次世代太陽電池の開発・普及を目標に取り組んでいます。
2050年までのカーボンニュートラルの目標を掲げていることもあり、その目標を達成するためには次世代太陽電池の開発・普及が必要不可欠です。

まだ実験段階で、実用段階には至っていない現状と、現在開発が進んでいる次世代太陽電池の種類とその現状について紹介します。
太陽光発電に関心のある方は、本記事を参考にしていただけると幸いです。

次世代太陽電池の背景、必要性

政府は、2050年にカーボンニュートラル目標を掲げ、二酸化炭素排出量実質ゼロにする取り組みを行うと発表しました。
令和2年度から国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に「グリーンイノベーション基金」を造成し、研究開発・実証・社会実装までを支援しています。
実際、「新型・新世代太陽電池の世界市場調査」では、2030年の次世代太陽電池の市場規模は、2017年比で約811倍と言われているのでその期待値は高いものです。
政府も「この目標を達成するために、次世代太陽電池の開発・普及が大切」と考えており、次世代太陽電池に力を入れていることがうかがえます。
ここでは、普及のための必要性について解説します。

必要性①(適地の確保)

カーボンニュートラルを実現するためには、太陽光導入の拡大が必要です。
そのためには、立地制約の克服が大切と挙げています。
ただ、現状で日本は国土面積あたりの導入量は主要国中1位です。
それをさらに拡大していくとなると、「地域の環境とのバランスを考えながら、安価で事業が実施できる太陽光発電に適した土地が不足している」といわれています。

その現状で設置を進める場所としてあがるのが、耐荷重の小さい工場の屋根・ビルの壁面などです。
しかし、既存の太陽光発電設備では設置できません。
そこで、上記のデメリットを補うために、軽量・柔軟などの特徴を持ち、かつ変換効率・耐久性など既存の電池と同等以上となる次世代太陽電池の開発が求められています。

必要性②(世界の潜在的需要)

現在、全世界で太陽光発電を導入しようとする動きが拡がっています。
実際にIEAの報告では、世界的に建物などへの設置が進むといわれています。
また、建物屋根における分散型太陽光発電の市場規模は2024年に現在の3倍導入されるとのことです。

ただ、これは全体的な潜在的需要(ポテンシャル)の6%程度でしかなく、これからも拡大する可能性は高いとされています。
そのため、現状で課題を抱えている日本が先行して取り組むことで、今後需要拡大が期待される次世代型太陽光発電・太陽電池市場の獲得を目指しています。

次世代太陽電池の事例

太陽電池の種類

「材料の種類」によっておおまかに分類すると、下の表のように太陽電池はシリコン系、化合物半導体系、有機系の3つに分けることができます。

新型・次世代太陽電池の世界市場規模予測

富士経済株式会社の「2022年版新型・次世代太陽電池の世界市場規模調査」によると、2035年までに世界の次世代太陽電池の市場規模は、2021年比では、22.6倍の8300億円、と予測されています。
既存太陽電池との併用や代替によるプロプズカイト太陽電池(PSC)の伸びで大幅拡大すると見られています。
2022年は市場全体では640億円程度が見込まれます。
ここでは、今後の開発・普及が期待される次世代太陽電池(有機系・化合物系など)の中から、5つを紹介します。

新型・次世代太陽電池の市場規模予測 出所:富士経済

ペロブスカイト太陽電池(PSC) ― 有機系

ペロブスカイト太陽電池(PSC)は、光電変換材料としてペロブスカイト(ヨウ化鉛のイオン性結晶)を用いた有機系の太陽電池です。
有機と無機のハイブリッド型で、現時点で特に有望といわれています。
軽量で柔らかく、曲げたり半透明にしたりできること、製造は基板に塗るだけと簡単で作成コストを低く抑えられるなどのメリットも大きい電池です。
実際に、「7年間で約2倍変換効率が向上した」ともいわれ、現在では約20~25%あります。
また、ヨウ素はシェアの30%を日本が占めているため、シリコン系太陽電池に対して高い競争力を持つと期待されている電池です。
その一方で、耐久性が弱い、大面積化が難しい、変換効率の向上などの課題もあります。

前述の調査によると、欧州や中国ベンチャー企業を中心に、2020年から2021年にかけて商用化が開始され、2022年の市場は前年比2.7倍の400億円が見込まれています。
2022年以降、本格的な量産が開始され、特に、既存太陽電池からの屋外用途の代替需要は潜在的な市場ポテンシャルが高く、今後、BIPVを含む建材用途やC-Si太陽電池の上にPSCを乗せ、太陽光の波長の吸収できる幅を広げることで発電効率を向上させたタンデム型の量産化により、2035年の市場は2021年比48.0倍の7,200億円まで伸びると予測されています。

実際、商用化では、2022年8月に、JR西日本が2025年の開業を目指す「うめきた(大阪)地下駅」にフィルム型ペロブスカイト太陽電池を提供・設置すると、積水化学工業から発表されたりと、今後の進展から目が離せません。

色素増感太陽電池(DSC,DSSC) ― 有機系

色素増感太陽電池(DSCまたはDSSC)とは、酸化チタン表面に色素を吸着させることで、その電子が酸化チタンに移動することで発電する仕組みです。
色素で光の吸収効率を高めていますが、仕組みが光合成に似ているため「光合成型太陽電池」ともいわれます。
色素を変えることで高効率化を図り、カラーバリエーションも多いなどデザイン性もあること、材料が安価で製造設備も小さくて済むなどの点がメリットです。
その一方で、電解液が有機溶媒なので、耐久性に課題があります。

現在、主に無線通信・センサー用電源として市場形成の初期段階にあり、前述の調査では、2022年の市場は60億円が見込まれ、今後は、発電デバイス単体ではなく、通信デバイスやセンサー、蓄電池などと一体化したモジュールとしての提案を中心に採用が広がり、2035年の市場は350億円と予測しています。

商用化では、デザイン性や軽量、ポータブルといった特徴を活かし、2019年以降、リコーからDSCを搭載するマウス、リモコン、会議用デスクなど、コンシューマー向け製品も販売されています。

有機薄膜太陽電池(OPV) ― 有機系

有機薄膜太陽電池(OPV)は、p型の有機半導体に導電性ポリマーを、n型有機半導体にフラーレン誘導体を使っている太陽電池です。
これらの有機半導体を混ぜて溶かした液を、樹脂などフレキシブル基板に吹き付けて製造しています。
印刷・塗布によって作成されるので生産コストが低い、有機材料の選択肢が広い、軽量で曲げられる点がメリットです。
その一方で、材料の安定性や耐久性が目下の課題です。

前述の調査では、2022年の市場は前年比12.5%増の180億円が見込まれています。
OPVは、DSCよりも量産化や事業化を進めている企業が多く、年間100万㎡規模の生産能力を有する企業も複数あり、印刷技術を応用したフィルム基板の製品を中心に、今後も、BIPVや壁材、窓材用を中心に市場拡大するとみられています。

GaAs太陽電池 ― 化合物系

GaAs太陽電池とは「フレキシブルGaAs」とも呼ばれる、ガリウム(Ga)とヒ素(As)という2種類の元素で構成した化合物半導体で発電する太陽電池です。
次世代太陽電池の中では、「化合物系」に該当します。
光吸収係数が大きいこと、エネルギーバンドギャップ値が1.47eVなので、変換効率が高い点がメリットです。
その一方で、Gaがレアメタルなので原料のGaAsのシリコンより価格が高いこと、ヒ素に毒性があること、もろくて加工しにくいというデメリットもあります。

コストが比較的高く有害物質を含むことから、従来、人工衛星や砂漠・乾燥地で用いられる集光型太陽光発電システム(CPV)に使用されてきました。
しかし、他の太陽電池に比べ変換効率が高く、面積当たりの出力が大きいこともあり、今後は自動車や無人飛行機(UAV)の用途で市場拡大が期待されています。
昨今これまでのコストを大幅に低減する技術開発が進展し、2019年には乗用車へ搭載した実証実験などもすすめられました。

量子ドット太陽電池 ― その他

量子ドット電池とは、半導体としてナノレベルの極めて小さい「量子ドット」を利用した太陽電池です。
さまざまなエネルギーの光吸収ができる量子化を利用しているので、従来の太陽電池より高い変換効率が得られます。
この電池のメリットは、変換効率の高さです。
理論上の変換効率は60%以上、実測では約30%の変換効率があります。
その一方で、材料に希少性の高いインジウムを使っていること、微小構造なので製造コストがかかる点がデメリットです。

次世代太陽電池の今後

次世代太陽電池で、現在有望といわれているのがペロブスカイト太陽電池です。
他のものも含め、既存の太陽電池に対抗しうる電池にするためには、既存のそれと同等のコスト・性能を有する製品を作る必要があります。
ただ、現状ではまだまだ研究開発中で、すぐに競合できる状況ではないのも確かです。

まだ、大型化すると変換効率が落ちるなどの課題があるので、まずは小面積での変換効率の向上、安定した性能を発揮できるだけの耐久性を持たせなければなりません。
その上で、性能を維持しながら大型化・モジュール化する技術を作り、耐久性試験をクリアできる試作品を作ることが求められます。
最終的には、ユーザー企業などの声を聞いた上で製品化を図り、屋外環境で性能を維持できるような製品製作が必要です。

政府は、2030年までに既存の場所で設置できなかった場所に対し、次世代太陽電池で導入できる水準を目標にし、発電コストを現在の業務用電力価格と同等の14円(1kWあたり)を目指すと発表しています。
そのために、早期の実用化が求められます。

太陽光発電の普及には新型太陽電池の普及がカギ

次世代太陽電池の開発目標・種類とその現状について解説しました。
現在はまだ実験段階で実用段階まで入っていませんが、環境負荷の低い太陽電池の開発も少しずつ進んでいます。
2050年までにカーボンニュートラル達成を目指すためにも、2030年までに次世代太陽電池の普及を進めることが必要不可欠です。
今後を見守っていきたいと思います。

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